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片輪車螺鈿蒔絵手箱

katawakuruma

 今日は、左の美術写真集の表紙にある蒔絵の手箱のお話をします。

 ある時期、私は趣味に漆工を習っていたことがあり、漆の名品を見るためにあちらこちらの美術館や宝物館を訪ねていました。そんな中、東京国立博物館で日本の漆工芸品の中でも特に有名な「片輪車螺鈿蒔絵手箱」を目にした時、意外にも、あまりきれいではない、という印象を持ちました。
 いや、そんなはずはありません。平安後期の漆工芸の名品、国宝にもなっています。蒔絵で表された流水の文様の中に、白い貝の螺鈿と金の研ぎ出し蒔絵で牛車の車輪が半ば沈んだ形で描かれている手箱です。三つ四つとかたまって水に浸かっている車の配置は、シンメトリーなどという幼稚な手法に頼らず、絶妙なバランスで決められているし、漆の枯れた赤茶色と全面にほどこされた流水文の金色が相俟って、美しく品のよい光沢をたたえています。蓋の上面から側面へと落ちていくカーヴのしかたも、ふっくりと豊かな感じで、人の気持ちをひきつける力を持っています。これを目にした平安の貴族たちもさぞや、この箱から取り出されるものにときめきを感じたことでしょう。
 でも、目前のガラスケースのうちにある手箱は漆のしみや、むらがあり、書割の線がぼやけ、螺鈿の厚い貝が平面から浮き出ているものでした。扱いづらい漆で白い貝の上に描いた線の中にはぎくしゃくし、はみ出しているものもあります。
「ふーん。こんなものなのか。」と思った後、なぜ自分がそう感じたのかを考えてしまいました。
 理由は写真です。本物の手箱を見る前に、私はこの箱の写真を見ていました。定かではありませんが、テレビでも見た覚えがありました。そうした経験が、現実の手箱の美しさとは違う美しさのイメージを私の脳にインプットしたのではないかしら、と思いました。美術図鑑の美しいつやのある紙、カメラマンが細心の注意をもって設定したライティング、印刷技術者が全神経を集中させて調合した色、そうしたものの総合力が現実の手箱ではない美を作り出したのではないでしょうか。

 そういえば、現代の音楽分野でも同様のことが起こっていると聞いたことがあります。CDを制作する場合、曲をそっくり録音したものをそのままCDにするのではなく、何回も演奏したうえでうまく演奏できたところをつなぎ合わせてひとつの曲にしてしまう、というのです。できあがった録音は、まだ誰も演奏したことのない傷のないものとなります。
 現代には、こんな「現実にはないもの」がどんどん増えているように思います。やっかいなのはそれが、何も言わなければ現実と錯覚してしまうことです。「絵に描いたような理想」として、意識して見たり、聞いたりしているうちはまだいいのですが、困るのは、写真ほどには美しくない「現実」をみんなが馬鹿にしてしまうことです。目の前の手に触れられるものを、しみがある、と捨ててしまうことです。
 考えているうちに、最近の日本で結婚する人が少なくなっているのも、これと関係があるのかもしれない、などと思わぬ方へ考えが及びました。

 それはさておき、あらためてこの手箱に向き合ってみると、流水文の力強いリズムには人の手の暖かさが感じられますし、もったりと重い漆という材料を、ここまで思い通りに使って表現しているその技術の高さには、地道な努力でしか得られない自在さがあるように見えてきます。これが生きた人の手仕事だ、と感じられて、再びこの手箱は私にとって尊敬すべきものとなりました。
 そして、ありとあらゆる情報の氾濫した社会に生きている者として、いろいろな場面で遭遇する「作られた現実」には注意をしなくてはならない、ということを教えてくれた平安の手箱に感謝をしました。

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コメント

ようやくネットが繋がりました。
仏像好きの友達にも早速このブログのこと
知らせました。
つくられた現実のお話、興味深かったです。
これからゆっくりバックナンバーも読みまね。
とりいそぎ、お知らせまで・・・


●ぷちさん、どうもありがとうございます。文字量が多いので、ゆっくり読んでください。

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