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画師の人生

 NHKの「新シルクロード 第6集 敦煌 石窟に死す」では、さまざまなことが語られていました。いろいろなことを想いましたが、その中で、画師の人生について考えてみようと思います。

 2001年から2002年にかけて、寞高窟蔵経洞発見100年を記念し開催された「敦煌美術展」の図録に、今回の放送で紹介された現代中国の画家、高山さんという方が描かれた『降魔図』が載っていました。第263窟の南壁を写したもので、もとの絵は北魏時代のものです。縦177.6cm、横228.8cmの画面の中央には釈迦牟尼が菩提樹の下に結跏趺座し、悟りを開こうとしています。その周囲には魔王波旬が魔女や魔衆を率いて、釈迦の成道を妨げようとしています。
 絵の左下で、妖艶な3人の魔女は釈迦を誘惑しようとしますが、右下の部分では、釈迦の神通力により醜い本当の姿をさらしています。画面の上のほうでは、猪頭、魚頭、驢馬頭の異形の者や動物の姿の者が戟や刀をふりかざして襲おうとしています。ところが、釈迦が座ったまま降魔印を結び、大地に触れた途端、魔衆は凍りついたように動けなくなる、という場面です。日本の仏像でもこの触地印という相のものを見ることがありますが、普通、人差し指と中指で大地に触れています。が、この263窟の絵では、右手の平をぺったりとつけているところが違っています。
 中央の静かな釈迦の様子と周囲のわさわさとした魔王や魔衆の蠢きとが対比される絵で、剥落した状態を写したものですが、それでも釈迦の微笑みがその口元に表れており、この絵を見る者に釈迦の精神の強さを伝えています。

 高山さんは20年間、敦煌で壁画を模写し続けている、と紹介がありました。毎日、暗い石窟の中で古代の画師が描いた絵を写していると、きっと壁画制作に携わった画師たちの人生を追体験するかのような感じがするのでしょう。高山さんは、水害で困って子どもを売ることになってしまった超僧子という古代の画師を題材に絵を描いていました。敦煌文書の中にある、「画師たちは、体がぼろぼろになるまで壁画を描きつづけた」という一節に古代の人々の強い信仰心を見ていらっしゃる、とも伝えられていました。

 古代の敦煌にも、富める者はいました。美しい衣に身を包む人々もたくさんいたでしょう。おそらく、おいしいものもあったのです。そうした人々を目にしながらも、貧しさの中で黙々と壁画を描いていた人もあり、黙々と筆を動かしながらも金持ちに対する嫉妬がむらむらと心に涌き上がり、それをまるで降魔図の釈迦のようにぐっと押さえつけて我慢する人もあったでしょう。あるいは、絵の上手い同僚に引け目を感じて意欲をなくす者や、家族との不和に悩み、筆の止まる者もいたでしょう。それでも、富める寄進者たちが生活の糧を画師たちに配り、画師たちはさまざまな醜い思いを篤い信仰へと昇華させて、美しい壁画を作っていきました。そして、現代の私たちは、残された美しい壁画を見ています。

 しかし、一旦信仰の世界に入り、仏教の教えのとおり托鉢用の鉢と数枚の衣以外、すべてを捨て去った者にとっては壁画制作の人生は大いなる目標があり、我が来た道のりが確かめられるすばらしい暮らしだったかもしれません。それは、シンプルで、美しい人生だったでしょう。ただひとつの気がかりは、故郷に残してきた母や家族のこと。番組でも母を想う詩が朗読されていました。
 今年2月頃だったか、寒い雨の日、目白の永青文庫で中国の石仏の展示会を見ましたが、その多くに、誰それが父母のために作った、という銘文が刻まれていて、人間の願いというものの最も基本的なものをみる思いがしました。おそらく深く仏教を信じる敦煌の画師や僧たちにとっても、親を想い、子を案じる気持ちはただ一つ捨てられない煩悩として、人生の最後まで残っていたのではないでしょうか。

 私は絵でも工芸でも、美しいものを見ることが好きですが、それは、その美しいものを作った人の美しさを感じられるからだろうと思っています。この敦煌にも多くのそういう美しい人たちの存在を感じ、感動してしまいます。

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