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    燕子花と橋のデザインされた光琳の作品 (東京国立博物館HP)

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青楓の小石川後楽園


  • 5月3日小石川の後楽園の庭を歩きました。

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平和と芸術

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 春のころ、家族と中近東への旅行に行こうかと話していました。シルクロードの本を見ているうちに、昔から憧れていたパルミラやペトラに行ってみたくなったのです。半ば本気で、旅行社からシリア・ヨルダン・レバノンのパンフレットなどをもらったりしていました。そのうち話は立ち消えになっていたのですが、ここへ来て、申し込んでいたとしても出かけられない状況になってしまいました。

 レバノンのベイルートは近年、一大観光地となり、その様相を変えたと言われていました。普通の観光客も楽しめる町になったベイルートというところに行くのに、リスクはなくなったのだな、と思っていた矢先、イスラエルによる空爆があったというニュースを聞きました。またしても紛争国が増えてしまいました。現在、外務省の危険情報地図によるとレバノン全土が真っ赤になっており、退避勧告が出されています。もちろん、旅行はもう募集していません。行けない国はまたひとつ、増えてしまいました。

 思えば、幼い頃からアラビアンナイトなどのお話を読んでは、バグダッドという町にいつか行ってみよう、と決めていました。しかし、イラクはフセインが追放された後もあのような混乱が続いています。また、仏教美術の初期の形が残るアフガニスタンも憧れの地ではありますが、まだ安全とは言えません。私の行きたい国は残念ながら、平和な国ではないのです。のんびりと観光客を受け入れるような国に、いつ変われるのでしょう。

 紛争や戦争があると、芸術などというものは脇へと押しのけられてしまいます。混乱に乗じてその国の宝である芸術品が闇の市場へ出て行って、戻らないこともあると聞きます。バーミヤーンの大仏のように、取引の道具にされ、その挙句に破壊されてしまったものもあります。

 日本の芸術を考えても、素晴しいものは安定した時期に生まれています。壮大な建築物などは安定政権によるものがほとんどですし、贅を尽くした工芸品もそれを享受できる人々がいなくては作られません。江戸時代のさまざまな文化も長い、戦いのない世の中であったればこそ、次々に出てきたのです。戦争や紛争は、芸術作品を生み出す職人集団を壊し、芸術家から筆を取り上げ、人々から芸術や美術を楽しもうとする意欲を削ぎ落としてしまうのです。

 それでも、人々は戦いの中にあっても、なんとか美しいものを守ろうと努力します。行方不明になったと思われていたアフガニスタンの国宝が心ある人々によって、秘密の場所に保管されていたということを聞いた時、私達はとても安堵しました。また、今朝のNHKの番組の中では、まだきな臭い混乱のつづくバグダッドで、アラビア書道の書家が活動を再開したということが伝えられていました。人は美しいものが好きなのです。

 私は時々、世界の悲惨なニュースを見ていて、こんなことが起きているのに、のんびり美術の話などしていていいのだろうか、という気持ちになることがあります。しかし、美術のいろいろなことを知れば知るほど、人々がどんな思いで美しいものを作ろうとしてきたか、また、どのような困難の中で美しい芸術を伝えようとしてきたかに思い至ります。そして、それらが食物と同様に、人々にとってどんなに大切なものだったことかを強く感じます。

 子どもたちが幼い頃、親子で演劇を見る会に入ったところ、その会とは本来関係のない政党の人達が会の役員をしていて、政党の新聞を読まないか、と呼びかけていたことがありました。その時、私は政治活動として子どもに演劇を見せているのではなく、もっと人間として基本的なものを身につけるために、いい演劇や舞台を見せたいのだ、ということを伝えました。たとえば、子どもたちにまだよくわからない原水爆禁止運動への参加を押し付けるのではなく、戦争の悲惨さを伝える本を読ませ、戦争がいかに人を醜いものに変えてしまうのか、ということを、劇を通じて考えさせたかったのです。

 同じように、芸術や美術には、人間の良心を呼び覚ます働きがあるように思います。遠回りのようでも、芸術や美術を見ることで、敵対する国どうしが相互理解へと向かうこともあるのではないでしょうか。美術の歴史は東西の交流史でもあり、同時にナショナリズムではない愛国心(住んでいる土地への親愛の情とでもいうのでしょうか)を教えることになるように思います。

 世界の紛争が一日も早くなくなり、世界中を観光して周れる日が早く来てくれることを望みます。


(写真は「イスラム美術展 宮殿とモスクの至宝」図録より、エナメル金彩装飾瓶。イスラムの美術品にはアラビア文字が装飾的に使われていることが多く、この瓶にも青い文字が書かれています。バグダッドの書道家もこの瓶のように数百年を越えて生きる文字をめざしているのではないでしょうか。写真はクリックすると大きくなります。)

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コメント

ご無沙汰しています。流風です。

名文ですね。流風も、これくらいの文章が書けたらと、うらやましいです。

さて、報道にあるように、テロが阻止されたそうですが、この問題は延々と続きそうです。イスラムの人口勃興とそれを人種差別的に危険視するアングロサクソンの戦い。それに、歴史的なアラブとイスラエルとの闘争。

残念ながら、我等は何もすることができない。結局、彼らはとことん戦って、その空しさを感じるまで、続けるのでしょう。しかし、多くの罪のない命が失われる。彼らを救済する方法はないのだろうか。

●流風さん、こんにちは。
9・11の事件を題材にした映画が公開されますね。
でも、こうした映画では何が起こったかはわかっても、
どうしてそのようなことが起こったのかはわかりません。
高校生の息子はそのことに気がついて、この映画だけを見ることの危険性を言っていました。少し、大人になったなと思いました。私たちに現在の紛争をとめることはできなくても、いろいろな事件の背景を考えることで、これから起こるかもしれない悲劇は食い止められるかもしれません。みんなで考えたいです。

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